棲家

棲家


極楽寺 14:40

稲村ガ崎から少し山手に入り坂をのぼる。狭い道の両脇に石垣。見上げると民家が点在している。目指すカフェはまさかのその石垣の上にあった。急な階段を昇り、石垣の上にやっとの思いでたどり着いた。2階建ての民家の2階からボクを見つめる人。二人並んだ奇妙な視線を感じてようやく分った、ここがカフェか。

2階のカフェでのんびり甘味を楽しみ、階下の薄暗い雑貨屋を覗く。アンティークの家具や衣装が部屋の隅から隅まで並ぶ。目の前の白いブラウスを眺めていると、首元にうっすら少女の顔が浮かぶよう。袖から白い細い腕がすっと伸びてきそう。

気味が悪い空間と思ったけど、部屋の中の品々を手に取って触れているうちに妙に安らぐ感覚になってきた。仄暗い空間に徐々に溶け込む。白い手がまとわりつく。このまま逃げようか。

再び階段を昇る。歪んだガラス窓の前の席に座り珈琲を啜る。誰か庭に入ってきた。どことなく僕に似た風貌の。「来ないほうがいいわ」と耳元でささやく声に頷いた。