SADAKO

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広島 14:17

広島市内の観光ツアーバスに乗った。実家が広島になって30年近くになると思うけど、改めて市内観光をしてみるのも悪くない、と父が言う。お盆ではあるけど、バスに乗る客は15人くらいだろうか。流行っているとはいいがたい。約1時間の乗車と平和公園散策が約1時間、という旅程。短時間が気に入ったというのもあったけど、小学校の修学旅行以来の平和公園も悪くないなと思った。

一応ガイドさんがいて、バスの中でそつなくガイドをこなす。平和公園に着く。原爆にまつわる物語は山口、広島に住んでいたこともあり、よく知っているつもりではあるが、知らない話もあるものだ、とガイドの話を頷きながら聞いた。原爆の子の像の前で被爆した女の子の話を聞いた。この像の周りには多くの折鶴が飾られている。その謂れをガイドは語る。話の内容というより、「話のプロ」のガイドはうまく聴衆を引き付けるものだと感心する。これ以上真剣に聞くと涙が溢れてきそうになるから、途中で話半分程度に聞いた。どうやらこの先の原爆資料館に女の子が作ったと言われる折鶴が見れるらしい。時間は残り30分しかないけど、足を運んだ。

館内は多くの人で溢れかえる。おそらく7割は外国人の人だろう。小学校の修学旅行で見たショッキングな光景はもう忘却のかなただけど、焼け爛れた人の像を見て、これは昔のままだなと。しばらくすると小さな折鶴が飾られているコーナーを見つけた。ああ、ガイドさんが話していた折鶴だと。この少女の物語は世界各国で翻訳されて読み継がれているらしい。改めてこの少女の物語について掲示板を見ながら反芻した。少女の名は佐々木禎子(さだこ)。被爆し、生きる希をかろうじて折鶴に見出す。壁に書いてあった物語を読み終える。外国人の鼻をすすっている。禎子の写真があった。花が一杯の棺の中で目を閉じている。その写真を見てたまらず涙が溢れる。急いでそこから立ち去るも、涙はしばらく止まらなかった。

時計はもう集合時間の10分前を切っていた。建物のどこを見ても哀しい出来事を思い出させるので、その都度再び涙腺を刺激する。少し落ち着いてバスに戻りたい。ふと壁際に英語で書かれた表示板がある。外国人がその表示の下にある紙を取っていく。どうやら英文で書かれた説明文のようで、僕はそれをさっと取り、英文に目をやって理解しようとした。気を紛らわすために。「Peace Declaration」(平和宣言)とあった。今年の式典の原文なのだろう。つなない語学力をフルに使い訳してみる。受験に出てきそうな英文だな、と思いつつ読み進めた。バスに乗り込んでしばらく英語と格闘する。平和宣言に相応しい素晴らしい内容だった。読み終えたところで、息子が聞いてきた。「なんて書いてあったの?」。僕は平和について真剣に説明しようと声を発したけど、声は出ず変わりに涙が溢れた。