Oregon

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西新宿 某日

会社に毎年提出する書類に目を通す。例年にない設問があった。

「英語ができますか」

今更、英語の能力を問うなんて遅すぎるような気もするが。まぁこれはいいとして選択肢が少なすぎる。「できない」「読み書きはできる」「話せる」。この3択じゃ辛いだろ。どれにつければいいのか悩んだ。

6年くらい英会話学校へ通っていた。新宿の雑居ビルに構えたインディペンデントなスクール。いろいろ探したが大手のスクールはどうも事務的で肌に合わなかった。薄暗いビルの階段を上がって、スクールの入り口を入った脇にレトロな椅子があって、そこで時間になるのを待っていた。椅子の後ろの壁にオレゴン州の地図が貼ってある。いつもその地図をぼんやり眺めていた。毎週見ていたからオレゴン州だけはどんな都市があるか少しは分ってきた。

事情あってこのスクールを離れることになった。窓口で手続きをしている間、この椅子に座ってオレゴン州の地図を眺めていた。事務員の後ろに担任のDavid先生が座っていて、僕に問いかけてきた。勿論英語で。「どこか旅したいところはある?」。僕は咄嗟だったということもあり地図を指して「オレゴンへ行きたいですね」と勿論英語で答える。Davidは笑いながら「上手い受け答えですね」と言いながら「英語は文法や単語では無いですよ。頭に思いついたことを素直に情熱をもって諦めずに伝えることですよ」と極めて流暢な日本語で。あれだけ、「ワタシニホンゴ、ワカラナイ」と言ってたくせに。最後に固い握手を交わした。