過去との別れ

過去との別れ


都下某所PM2:40

かつては昭和の団地だったここは、毎年秋になると団地の片隅にいかにも栄養状態の悪そうな、背の高いひょろっとした自生のコスモスが咲きあふれる。僕は好んで自生のコスモスを撮っていた。

そして6年後。僕の目の前には広大な土地が広がる。春の生命が更地に命を吹き込み、緑の絨毯が広がりつつあるけど、ところどころアパートのコンクリートのかけらや鉄筋が死骸のように転がっている。死骸のようなアパートを愛おしく思っていた僕も6年前は死骸だったのかもしれない。

更地の転がっているコンクリートの破片を手に取ると、かつて撮ったコスモスが脳裏に浮かぶとともに、僕の体が再び死骸になっていくのを感じる。それはとてもとても心地良い瞬間。でも僕はそっとコンクリートの破片から手を放し、美しく瑞々しい緑の野原を写す。